SCP-1823-JP -終わりゆく街と生誕祭

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SCP-1823-JPの調査に向かうSCPS"ジン"

アイテム番号: SCP-1823-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1823-JPが存在している海域への一般人の立ち入りは禁止されています。当該海域周辺は、財団の軍用艦艇によって定期的なパトロールが行われます。

SCP-1823-JPの調査は当該オブジェクトの担当職員、及びセキュリティクリアランス2以上の職員2名の許可を得た上で行ってください。

説明: SCP-1823-JPは宗谷海峡最深部に位置する都市状の構造群です。構造群は真円を描き、2.8平方キロメートル程度の面積であると推測されていますが、オブジェクトの大半が埋没してしまっているため、正確な面積を計測する事はできません。SCP-1823-JP周辺には常にブリキの玩具の残骸と思われる物質が浮遊していますが、これらに異常性は発見できませんでした。

SCP-1823-JP領域内には、人間の生活痕の残存する家屋、食事等を販売していたと推測される屋台、現在も外部にて販売されている物品の並ぶ本屋等、昭和初期の生活様相を示す建造物が発見されています。SCP-1823-JPの異常性として、それらの建造物、及びSCP-1823-JP内部に存在している物品は海水の影響を受けず、また腐食する事もありません。建造物内部の様子から、SCP-1823-JPは元来地表に存在していたと推測されていますが、当該オブジェクトの発見情報は財団のデータベース上には存在していませんでした。

SCP-1823-JPの調査において、現在までに既存のSCiPに類似した物も含め、様々な物品が発見されています。呼称上、財団はそれらをSCP-1823-JP領域を4つの区域ごとに分け、発見した区域に応じて、SCP-1823-JP-1-A~SCP-1823-JP-██-Dと呼称しています。しかし、そのいずれも異常性は発見できておらず、簡易的な調査の後、現在もSCP-1823-JPに放置されています。

SCP-1823-JP-22-A 漫画家██ ███氏によって執筆された漫画本。版数が極端に少ないため、一般には流通していない。本屋において発見され、透明なブックカバーの上から██████円の値札が貼られていた。
SCP-1823-JP-23-A 月見団子。家屋で発見された。現在までに制作したと思われるメーカーは発見されておらず、三方部分に卯月生菓店の印が刻まれている事から、SCP-1823-JP内部にて生産されていた物と思われる。可食。
SCP-1823-JP-24-A ウレタンを白い布地で覆って制作された、円柱型のサンドバッグ。SCP-1823-JP-23と同じ家屋の中で発見され、使用頻度が非常に高い事が判明している。
SCP-1823-JP-54-B アナログ式のベル目ざまし時計。学校と思われる施設にて発見。ベル部分に師走金属店との刻印がされている。通常通り使用可能。
SCP-1823-JP-72-D 警察官の制服。胸には睦月警備社のロゴが刻まれているが、そのような名前の警備会社は存在していない。SCP-1823-JP-73の警棒と同じく、路上にて発見された。

発見経緯: 29回目のSCP-1681-JP出現時、担当職員との間でこのような質疑応答が行われました。以下はその記録です。

Q.酩酊街はどのような組織ですか?

A.はい。消えゆく世界の残骸、もしくは消えゆく世界へと向かう者です。

Q.消えゆく世界の残骸とは何ですか?

A.はい。かつてあの狭すぎる世界は一度、海の底へ沈みました。ドードーにとって、それが一度目のかけっこでした。

Q.その残骸が沈む場所はどこですか?

A.かけっこを終えたドードーは、日本と露西亜の境界から消えゆく世界の残骸を見つめていました。友達が沈んでいくのを見つめていました。ドードーは覚えています。ドードーは忘れません。

Q.友達とは誰ですか?

A.失敗を嫌う友達です。彼らは酩酊街の失敗を嫌い、元通りにしようとしました。しかし、できませんでした。ドードーは彼らを忘れません。

質疑応答の後、SCP-1681-JPの解答を参考にし、宗谷海峡付近の捜索を行ったところ、SCP-1823-JPが発見されました。しかし、アカクラゲ(Chrysaora pacifica)の異常発生に伴い、過去に行った宗谷海峡付近の捜索ではSCP-1823-JPは発見されなかった事から、何らかの形で転移してきたオブジェクトであると推測されています。

補遺: SCP-1823-JPの中心部に存在する木造の建築物の内部より、PoI-1925に指定されている大墓██氏の物と推測される日記、及びその日記の数か所に挟まれる形で差出人不明の手紙が数枚発見されました。以下はその日記と手紙の写しのデータです。

200█/2/18

この街を作り上げてから、もう少しで20年が経過する。
今日、街の長から個別に呼び出され、その20周年を祝うための祭りを行いたい、という旨の話を聞かされた。そこで私は初めて、もうそれだけの月日が経ったのか、と実感した。
あまりにも長いようで短かった。それはまるで、本当に心地よい酔いに浸っていたかのような気分であった。

人間から虐げられていた私達を、長が拾い上げてくれたあの日。私達は長の元で生きる事を誓った。自分達の得た幸せを、他の人間にも分け与えるべきだという長の考えに、今まで虐げられていた私達は疑問を呈した事もあった。それでも、恩に報いるために私達は必死に人々に幸福を与えてきた。
今回もそうなるだろう。何故、長が20周年を祝いたいという旨を、私に相談してきたのかはわからない。だが、私達は頼まれた以上は、最大限の仕事はするつもりだ。

200█/3/22

何が間違っているのか、何が正解なのか、それは長にしか分からない事なのだろう。
私はこの街の理念に沿って行動してきた。そのために、顧客の望む事は出来る限り叶えた。しかし、どうやらそもそも、理念の解釈が間違っていたらしい。

それは、幸せの分配では決してない、と。

顧客の望む事を叶える事が、幸せではないというのであれば、幸せとは一体何なのだろう。会議の場を飛び出してから、ずっと考えていた。
元々受けていた依頼を放って、日記を書いている私と、今もどこかの誰かのために、何かを作り続けている彼らとは、一体何が違うのだろう。
今日も、眠れそうにない。


200█/5/27

昨日、男が来た。仕事の依頼にだ。
断るつもりだった。だが、その男は目深にフードを被り、一通の手紙と数枚の写真を渡して、依頼の詳細はまた後日伝えると言って去っていった。

私はまず写真を見た。そこには、圧倒的な赤褐色が映し出されていた。肉の壁、肉の屋根、肉の窓。日本では決して目にかかる事のできない、その数枚の写真を私は今も手元に置いている。この日記を書きだすまで、何度も写真を指でなぞってしまってもいた。

あの男からの依頼を、受けたいと、心からそう思った。

200█/6/14

男との約束の日。私が現場に赴くと、そこには、彼の姿と数百人を越える男女の姿があった。
これが建築物の材料である、と男はそれらを指差した。だが私は、先の長の一言のせいで、手を伸ばせないでいた。

それなら、と男はナイフで彼らの腹を捌いた。一つ、二つと男女から臓物を引き摺り出すと、それを私に手渡した。
男は、彼らは自らが望んで、神への供物になる事を望んだ。そしてその彼らを使って、聖なる神への捧げ物を作る、彼らはそれに抵抗する事はない。これはあなた方の長の言う、彼らにとっての幸せに間違いないと断言した。

今日、初めて私達は理解者を得た。


200█/7/1

20周年を祝うにあたって、私達は街を忘れ去られる人の集まる場所にしたい、という長の願いをかなえる事にした。
喜んでくれるだろうか。喜んでくれたなら素晴らしい。

私達は幸せの分配ばかりしてきた。ならば、その逆も行われて然るべきなのだ。多少、無茶な計画に不安が残るが、幸いなことに、彼らもこのサプライズには協力してくれると言う。これなら、大丈夫そうだ。

ああそうか。つまりは、私たちが行おうとしている事は、この一言に全て集約されている事になる。今まで使いどころが分からず、ビジネス的な文面ばかり使っていたが、今後はやっと、意味を理解した上で、この言葉を使えそうだ。

酩酊街の[読み取り不可]より、この街と長へ、愛をこめて。

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